明日は仕事です。
明後日はサンタさんがくれたクリスマスプレゼント~仕事です(笑
という訳でj本日が掃除&正月準備のメインとなっております。
これを書いたら買い出しに行ってきます。
雪がちらついているので、ホワイトクリスマスにはなりそうですが。ゆっくり休めるのはまだ先ですね。
そして、お力添えを頂きゲームブック修正しております。
少しでも楽しんで頂けたら何よりです。拍手もありがとうございます。
私信ですが、メールありがとうございました。
私も行けるものなら行きたいですよ~~~!!と出雲の地より叫んでおきますね。
お返事お待ち頂いて申し訳ありません。
なのに、こんな落書き(描きに非ず)書いてる私は一体…苦笑
スレを立てる時は、よくスペックを晒せとくる。それを踏まえると自己紹介はこうだろう。
10代女 フツメン オプション眼鏡 少々底意地悪し 学業成績良好
風はキーを打つ指を止め、首を傾ける。
(来年受験あり)とすべきか(繰り上がり)と書くべきか迷ったからだ。それはまま、風の迷いでもある。
通っているのは、そこそこ名の知れた幼等部から大学部まで一貫校だが、風の趣味であり将来の夢でもあるプログラマーとして勉強していくには、少々もの足りない環境なのも事実。だからと言って学校が嫌いな訳ではないので、専門校と併用していく方法も考えられる。
人生が大海原である人間に比べれば、三角波程度の些細な悩みかもしれないが、風にとっては一番の悩みでもあった。
ディスプレイに向かっていた顔を上げて、窓越しに外を眺める。
雪は降っていなかったけれど、校庭の広葉樹は全て葉を落とす寒い季節。おまけに定期試験が今週末に迫った日程では居残って部活をする生徒はほぼ皆無。
人のいない学校は余計に寒々とした感じを受けた。
それに拍車を掛けていたのは、気の早い(寒がりなのかもしれない)太陽が早々に姿を消そうとしいた事だろう。冴え冴えと澄んだ空気ごと空を真っ赤に染めていた。
校門が閉まるには暫く時間はあるけれど、下校いたしましょうか。
何を見るでもなくぼんやりと眺めていた風は、有り得ないものを見つけて一瞬目を瞬かせた。思わず掛けていた眼鏡を取って、もう一度掛け直す。
それでも、目の前の光景は変わらなかった。
夕焼けに染まった空から何かが堕ちていた。
それは人影によく似ていて、ヒラヒラしているところなどは風に煽られたゴミ袋にも見えたけれど、やはり人の形のような気がした。
風はガタンと大きな音を立てて椅子から身体を起こし、パソコンの電源を落としながら片手でノートを鞄に詰め込むと、コートを斜めに羽織り教室を飛び出した。
クラスメイト達には物静かだと思われがちだが、意外に好奇心は旺盛な方だ。
見失わないように廊下の窓から外を確認しつつ、下駄箱へと走り込む。
靴を履き替えるのももどかしいと感じるじれったさは、職員室に残った先生が掛けて来た声にも軽い会釈で通り過ぎた。
職員室の窓からも先程の影が見えてはいるのに、先生は誰ひとり気がついた様子はない。声を掛けようかとも思ったが、影が随分下がって来ているのに気付いて止めた。忙しげに走り去る自分の姿に、先生の目も丸い。
明日は何らかの問い掛けをなさるのだろうと思いながら、風は脚を早めた。
◆ ◆ ◆
校庭の奥。大学へと続く道の先にはまるで森のような公園がある。影はそこに近付いていた。
見る間に公園の中にある古い物置の上だけれど、明らかに落下速度がおかしい。
長い布(尻尾?)はふわりと揺れて、慣性の法則だとか物理的なものが色々置き去りにされている。
相変わらず夕日に照らされて、物体は黒い影としか風の目には見ることが出来ない。僅かに身体から光が見えるような気がした。
まるで、魔法。
風は思わず息を飲む。
思ってもいなかった、非現実が目の前で展開されている。それだけは確かだった。
けれど、いきなり灯りが消えるように輝きを失ったかと思うと空から振ってきたモノはそれまでの浮力を全て失ったように、引力に掴まった。
幻想は、躊躇いもなく屋根へと落下した。
廃屋の屋根を突き破ったのだろう嫌な轟音が響き、風は両耳を塞いで目を閉じる。
崩れた家屋からは埃が舞い上がり周囲に散った。粉塵がコントの一場面にも似て、妙に派手だ。
「これは、酷いですわね。」
ゲホゲホと咳き込むものの、何の騒ぎにもならないのは木々に覆われた場所だからだろうか。吹きすさぶ風に飛ばされて、物置が潰れている以外は何事もなかったように静まりかえっている。
「失礼致します。」
一応ことわってから、瓦礫の中に脚を踏み入れる。天井にポッカリと空いた穴が照らすダンボールだの、掃除用具の隙間に脚らしきものが見えた。
「あら、あら…。」
眼鏡をキラリと輝かせて、風は慎重に距離を縮める。
身体全体を投げ出しているのは、やはり人間のように見える。白い衣装は埃にまみれているが、外傷は見当たらない。手袋とかブーツとか全身を覆っている衣装のせいだろう。
ヒラヒラして見えていたのは、背中に背負ったマント。それでも某漫画のように、グライダーになることも無く、瓦礫のなかでグシャグシャになっていた。
それにしても屋根を踏み抜いた挙げ句に気絶とは、随分と情けないというか可哀想と言うか…。イケメン(のように見える)だけにコメントは差し控えてあげるのが心遣いだろう。
翠色の髪、彫りの深い顔立ち。鼻の上についた傷跡がひときわ目を引く。
先程ついたものではない証拠に、素肌に出来た擦り傷は血を滲ませているけれど、それは乾いていた。
じっと見つめていればいるほど、風はそれ以外のものに見えてこず、少々困る。
羽根もなければ、尻尾もない。全身が毛むくじゃらでもなければ、手足が豊富にある訳でもなく。
(人間ですわね。)
目を伏せて、風は息を吐いた。
空から人が降ってくるのも、なかなかに刺激的な出来事ではあったが、折角なので普段見れないものが良かったですわ。
失礼とも思える結論に達した風の頬に、ぺたりと冷たいものが貼り付く。じんわりと溶ける感覚に雪だと分かった。
目の前で眠っている人間の頬にも次々と降りかかるのを見て、風は頬に指先を当てて小首を傾げた。雪の刺激で目を開けないと言うことは簡単に目覚めないという証しだろう。
「…放置しておけば間違いなく凍死なさいますわね。」
仕方ないですわと呟くと、風はタクシーを呼び止めるべく立ち上がった。
…続くかどうかは謎ですが、イワユルらぴゅたのパロです。(恐らく悪役はイーグル♪)
風ちゃんがふんわり落ちてくるのを受け止めるのは是非本編でやってみたいので、今回は奴を落してみました。
屋根をぶち破るとなお良しとの助言を頂いたので『承知しました』的にやりました。ごめんね、楽しかったです。
お手数をお掛けしてしまった方々や、(いないとは思うのですが)楽しみにしてくださっていた方には深く頭を下げさせて頂きます。本当にすみません。
続きに苦労性シリーズです。
弓道場の横を通ると緊張すると言った友人がいた。何だか矢がビュンビュン飛んできそうな気がするらしい。
そんなはずあるか。
とフェリオは苦笑 する。もしもそうなら、射手が相当の下手糞か、そこが合戦場だったはず。
それでも一種の緊張感を伴って、フェリオはその場を通り過ぎようとした。
中学時代に使用していた弓道の練習場。学校ではなく、近くの丘陵地に設えられた公共のものだ。公園の内部に作られてはいても、一応の危険は考慮されているのだろう。散歩コースからは外れた、早朝なら尚更に人が来ない場所にある。
微妙な疎外感がフェリオの心を揺らしたのは、懐かしさを伴ったものか、輪から外れてしまった人間が感じる障壁のようなものからくるのかよく解らない。
近道などしなければ良かった。
後悔の念が浮かび、しかしふらふらと埒のない想いを振り切るように、フェリオは練習場を突っ切った。周囲に植えられた生垣を乗り越え、静まり返った朝の静寂を不作法に破る。
芝を引いた矢道を真横に突っ切って降りると、学校への最短距離になるのを知っている。(勿論土足で歩いていいはずがない。)気持ちとは別に、中学時代からの馴れた道をついつい身体が選んでしまっていた。
矢道に沿って作られた矢取り道から中へ踏み込んだ途端、射場から鋭い声が発せられた。
「どなたです!?」
しまった人がいたのかと顔を向けたフェリオは、両手を上げた降参のポーズを取りながら固まった。
袴姿の風が、安土に向かって矢を射る格好で立っている。
勿論矢尻は、的と彼女の間にいる自分へと真っ直ぐに向けられていた。後ろへと引いた腕は、絞った弓を掴んでいる。彼女が少しでも腕を緩めれば、自分の額を射抜き、漫画のような有様になるだろう。
「ちょ、ちょっと待った…降参!!!」
「え…フェリ、オさん…?」
何度か目を瞬かせて、風はゆっくりと弓を降ろす。同時にフェリオも胸を撫で下ろした。
◆ ◆ ◆
「何をなさっていらっしゃるのですか、当たれば怪我ではすみませんでしたわ。」
「…すまない。誰もいないと思ってた。」
後頭部を掻きながら苦笑いをするフェリオに、風は少し頬を膨らませた。
優等生として毅然とした態度をとる事の多い風の子供っぽい仕草はとても可愛らしい。
「いつもお通りになっていらっしゃいますの?」
呆れた表情で息を吐き、手際よく用具と服をスポーツバッグに片付けていく。フェリオは風の仕草を目で追いながら、身振り手振りを交えて会話を続けた。
「だから、此処は馴れた道で、えっと、そこから降りると正門への近道になるんだ。」
「え、でも道なんて…崖のようになっておりますでしょう?」
「そうそう、こう、ザザッと壁面を滑り降りて…だな。」
目を瞬かせる風にサーフィンをするような格好をしてみせると、彼女は本気で呆れた様子だった。
パタンと大きな音を響かせて閉じたバッグを肩に掛けて立ち上がる。スカートの裾を手で直してからフェリオに顔を向けた。眼鏡越しの翡翠が険を帯びているから、風は確かに怒っているようだった。
「危険ですわ。先程だって、私、那須与一になってしまうかと思いましたもの。」
「う~ん無茶ばかりする、とはよく姉には怒られる。」
ははっと軽く笑うフェリオに、風は眉を顰めた。
お近づきになりたい彼女を怒らせて仕舞う必要など無かったのだけれど、怒る表情すら可愛らしくてフェリオは軽口を続けてしまった。
けれど、彼女が怒っているのはフェリオを心配しての事だったと気付いたのは、風が鼻梁の傷を示した時だった。
「もう危ない事はお止め下さい。お顔の怪我もそうやっておつけになったものではありませんか?」
眉を歪めた顔を向けられて、フェリオは一瞬呼吸を止める。
それから、慌てて顔を背けた。ドギマギと心臓が不整脈を打っているのを気付かれなかっただろうか? 斜めに伺う彼女の横顔は本当に悲しそうな表情をしている。
相当に心配を掛けていると思うと益々告げる事が出来なくなった。
鼻に傷をつけた理由がそもそも話せないのだ。
幼い頃、親戚の犬に躾と称して辛子を食べさせた。
名誉の為に言っておくが、悪戯のつもりはまるで無い。拾い食いをしないようにという、犬にとってはありがた迷惑だろう心遣いのつもりだった。
まぁ理由はともかく、そんなものを喰わされた犬は非常に驚き、ついでに暴れ回り、フェリオは名誉の負傷を負う羽目になった。
親戚にもケチョンケチョンに怒られ(当たり前だろう)、おまけに顔のど真ん中に大きな傷が残ってしまった。
目立つからよく理由を尋ねられるのだが、恥ずかしい理由に話せた試しがない。
幼なじみの女の子を庇っただの、魔物に立ち向かってつけられただの。そんなご立派なものならば、武勇伝の様に言えるのにと何度思った事だろう。
(でも結果的に黙ってしまうので、とんでもない過去があるのだろうと皆が勝手に推測してくれている…全く本当の事が言えないじゃないか!)
顔に残る過去は、もう少しハードであるべきだった。風だって、そういう武勇伝を思い浮かべているに違いないだろう。
無茶をした…といえばそうかもしれないけど…。
羞恥に顔が赤くなるのがわかって、フェリオは誤魔化すように声を張った。
「平気、平気。馴染んだ場所なんだよ此処は。
風は知らないかもしれないけど、俺中学時代に弓道部だったから、此処よく利用してたんだ。ほら、中学校も近いから常連的に近道っていうか。」
ははは~と軽い笑う。同調してくれるかと思いきや、風の返事は静かなものだった。
「申し訳ありません。存じておりました。」
風の言葉に、俺はもう一度目をぱちくりさせる羽目に陥った。
「昨年、春の県大会でお姿を拝見して。ご立派な成績を残していらっしゃいましたから覚えております。」
はにかむ表情を浮かべる風に、どくんと胸が高鳴った。けれど、彼女は直ぐに顔を曇らせる。
「高校でお見かけした時に、続けていらっしゃるとばかり思っておりましたので、お辞めになったと伺って…随分残念ですわ。」
「うん。」
お前が残念がる必要はないんだよ。俺の勝手なんだ。
今度は静かになったフェリオに、風はハッと口元を抑えると小さく頭を下げる。
「申し訳ありません。色々事情がおありになるでしょうに、差し出たことを申し上げてしまいました。」
「気にすんな、辞めたのは確かに俺の個人的な理由なんだから。お前がそんな顔する必要ない。」
努めて笑顔を作って風を見つめ返す。彼女はふるりと首を横に振った。
「弓をお嫌いになっていらっしゃらないなら、それでいいですわ。」
「…嫌いじゃないよ。多分。」
フェリオは笑みを維持しようと唇に力を込める。上手く出来たかどうかは、酷くおぼつかない気分だった。
やっとネタを上げる事が出来ました、某様。私はアレもある意味武勇伝だと思ってます(喜)
手帳の本体(?)は大きさ以外には特に種類はないんですが、毎年発表されるカバーが可愛い。
ついつい変えてしまいたくなるのですが、去年から使ってる吉田のものが非常に使いやすくて、デザインだけでは変更する気になれません。
目移りするほど色々あるんですけどね。今使ってるのは黒一色。カバーというか鞄です。
ポケットもついてて、色々入れられて便利。ほんとはショルダーバッグにもなるんですけど、鞄の中に入れて持ち歩く事が多いので、紐は外してます。
(猫がじゃれて何処かへ持っていったような気がするのは、きっと気のせい…だよね・汗)
なので今年は本体だけの購入になりそうです。
そして拍手ありがとうございます。
改めてお返事は致しますが、ジェピの方にお声を掛けて頂くと涙ぐみそうになりますよ。
ほんとにありがとうです。
そして、続きに思いつき小説。こんな事ばっかりしてるから続き物が終わらないんだよ…。
最も忘れたくて、一番忘れたくない記憶
セフィーロは「柱」の創りし世界。
それは、光が『柱』となる前の、世界の常識だった。
けれど光の願いを受けたセフィーロは、国に住む全ての物達が支え合う世界へと姿を変えた。柱の心そのままの風景や気候では無くなった。
…とは言え、最初に創作したのが光である以上、その影響を全く受けない世界という訳ではないのだろう。此処から先は、きっと創造主を以てしても(予測出来ない未来)の類に突入しているに違い無かった。
春の後に夏が来て、肌寒さを感じる季節がやってきた。
だから、これはきっと秋なのだろう。
風はそう納得して、遠くに見える山々の木々に視線を向けた。
植物の名前はわからないが、前に訪れた時確かに緑色だった葉を赤や黄色に染め上げて、彼等は山に彩りを添えている。そうして周囲を見回してみれば、ヒラヒラと降り注ぐ葉が、太陽の光を孕みながら地面へと降り積もっていた。
葉の色にふたつと同じものは無く、さながらに無造作に色を重ねた絨毯だ。
多くの実りをも、その懐に抱いた豊かな自然。美しく秋を着飾った風景に風は目を奪われる。
この美しい世界を見る事が出来て良かった。風はそんな思いと共に、同行者を振り返る。少し遅れて、フェリオの姿があった。
普段の大胆な行動は欠片も無く、なんとなく落ち着かない様子で風の側へと歩いてくる。
「…気持ち悪い。」
ガサリと枯れ草を踏み、フェリオは不機嫌そうな表情を隠そうともせず眉を寄せた。風は彼の言葉を聞き咎め顔を顰める。
こんなに美しい世界なのにと、風には彼の真意を汲み取る事が出来なかった。
「どうしてそんな事を?」
酷く悲しげな表情をしたせいなのだろう、フェリオは苦笑してふるりと頭を横に振った。
「セフィーロは常春の気候だった。勿論寒い場所や、もっと暑い場所もあったが、こんなに多くの葉が散ちたことは一度しかないんだ。
これじゃまるで…。」
言い淀んで唇を結ぶ。
まるで、崩壊していくセフィーロのようだ。
彼の言葉にならない声が、やっと風にも届く。
己が見たのは、崩壊する前と崩壊しつくして荒涼とした岩肌になっていたセフィーロだけだ。自分たちが切欠だったとは言え、崩壊までの過程を見る術など無かった。
ある日突然、全ての木々から葉が枯れ落ち、空が闇に閉ざされ地が消えたとしたら、それはセフィーロに住まう人々にとって恐ろしいだけの記憶だろう。
それをもたらしたのは、根本的には『柱』だったとしても直接の原因は自分たちだ。
「…フェリオ…。」
「いや、すまない。これは四季というものなんだろう?ヒカルがそう言っていた。」
何事も無いように笑顔を浮かべて、フェリオは周囲を見回す。風もズキリと痛む胸を抑え込んだ。
彼は自分を責める事など無い。感謝しているという言葉が嘘だなどと思った事もない。それでも、フェリオのたった一人の姉を死なせてしまったのは自分達だ。
その事実は絶対に揺るがない。
「ええ、もうすぐ雪が降る(冬)という季節がやってきます。だから、木々達は自らを守る為に、こうして葉を落とすのですわ。」
雪は知っているぞ、と告げてからフェリオは小首を傾げた。
「身を守る?」
「植物の葉は大きくて薄い方が光合成をする上でとても便利なんです。
けれど冬の凍結と乾燥にとても弱くて、持っているだけで自らの生存が危うくなってしまいます。だから、冬に向けて自らの葉を落として身を守ると言われていますわ。」
「言われています…なんだな?」
じっと風の言葉を聞いていたフェリオは、琥珀の瞳を細めクスクスと笑う。何か可笑しかったでしょうかと聞くと、先の答えが返って来た。
「これは学説というもので、私も(樹木さん)に直接お伺いした訳ではありませんもの。」
大まじめに答える風に、フェリオはハハと声を上げて笑った。
「なるほど、うん、そうか。」
「それとも、セフィーロではお答えが頂けるものなのですか?」
風はイチョウに似た木の幹にそっと指先を滑らせ、何か聞こえるかと片耳を押し当ててみる。フェリオもその横に立ち、木にもたれ掛かる風の様子を見遣ってから、空へと視線を移した。
瞼を落としても、聞こえてくるのはフェリオの声だけ。
「全てに心が有り、それが支え合っているのが今のセフィーロだ。
でも、どうして心臓が動き、血管が血を送り出しているのかと問われても、フウだって答えられないだろう?」
「ええ、確かにそうですわ。」
「きっとこいつ等だってそうだ。」
フェリオがポンポンと幹を叩くと、呼応するようにザワと葉が揺れた。
ふふっと風が笑うと、フェリオも笑う。そして、閉じていた目を開いて、風は幹に置かれたフェリオの手に自分の掌を重ねて置いた。
どうした、と柔らかな声と笑みが風に向けられる。
「…まだ綺麗ではありませんか?」
風はもう一度だけ紅葉した山と絨毯に似た足元をフェリオに示した。
「綺麗だな。」
琥珀の瞳が嬉しそうに細められるのを見ると、風の胸がすこしだけ熱くなる。
彼は紅葉を褒めているのであって私に向けられた言葉では無いはずなのに、こんな時はスルリと動くはずの頭が作動不良になってしまう。
「それに初めての四季なのに、冬に向けて準備をすることを知っているなんて随分と賢いと思う。」
「私達だって、寒くなれば温かくなれるようにと動きますわ。」
重なっている指先と指先がどちらからともなく交互に交わる。伝わる体温がジンと肌を温めていた。
気恥ずかしくなった風とは違い、フェリオはただ嬉しそうに微笑む。
「そうだな、四季は全てが、変わっていくこと、行けることが実感出来そうな気がするよ。常春のセフィーロはもう、無いんだと本当に実感出来る。」
それは、彼の姉が鬼籍に入っているという事実。風は再び瞼を落とした。
光が、ランティスの声を聞き悲しそうな表情を浮かべるのを知っていた。それほど彼の声は、亡き兄に良く似ている。
勿論彼が光に対して責め苛むような事を告げるはずはない。
それでも、鳩尾をギュッと締め付ける何かに、自分達はふいに捕らわれるのだ。
時間が忘れさせてくれるものなのか、それともずっと心の中に留まり続けるものなのか、風にはわからなかった。
わかっているのは、前触れもなくふいに風の心を通り過ぎて行くという事だけ。
何も起きなければ、確かにこんな想いをする事は無かっただろう。けれど、何も起きなければ、私はフェリオを知る事もなく、恋心を知る事も無いのも確かな事実。
東京の四季は当たり前に過ぎて行き、世界の有様に深く心を寄せる事などきっとありはしなかった。
ふいに、ギュッと包む込むように掌を握られる。慌てて瞼を上げれば、少しだけ頬を赤くしている、フェリオが見えた。
「これから先、繰り返し紅葉を見ていればそのうち馴れる。」
「何度も、?」
「そう、何度も。」
フウと一緒に見て行きたい。
貴方といる限り、何度でも思い出すだろう気持ち。それでも貴方から離れたくないと望む心。
「私、夏は暑くて苦手なんです。」
コクンと喉を鳴らしてから伝えた言葉に、フェリオが笑う。
「でも冬生まれなので、寒いのは得意ですわ。指先がいつでも温かいと家族の者はいいますもの。」
手の温かい人間は心が冷たい…なんて俗説をフェリオは言わない。
「わかってる。」
いっそう強く握り込まれた指先。
「冬が楽しみだ。」
単刀直入な言葉に、風は軽く肩を竦めふふと笑った。
行きも雨なら帰りも雨。一日雨降りの中を目的地に向かってもくもく歩くという苦行(笑)を遂行です。
でも、雨の厳島神社はなかなか風情がありました。
小学生位の時に一度来た想い出があるのですが、鹿に囲まれておやつを取られた事しか覚えていないのですが、鳥居とかを見ると、ああ、見たような気がするなぁ…と。残念ながら引き潮だったので、海に浮かぶ赤い鳥居は見れませんでしたが、近くで見る事は出来ました。大木をまんま使ってあるのがよくわかる形ですね。
潮干狩りをしたような気もしたんですが、ガイドさん曰く『普通では採れないので、お客様がいらっしゃる前に海に撒く』んだそうで、釣り堀みたいだなぁと…。
そうそう、雨が降っていたせいか、鹿さん達も得にやる気がなく雨宿りをしていらっしゃいました。
奈良の鹿さんはどうかわかりませんが、宮島の鹿は野生のものらしく看板に(見守ってください)と注意書きされてました。
カキを焼くにおいに誘われつつも、ツアー旅行なので寄り道も出来ずにただ歩く(笑
観光客も多かったので、水族館もいつぞやに行ったように、人を見に来たのか魚を見に来たのかっていう状態。まぁ、観光地なんてそんなもんですよね~。
実は幹事のひとりだったので、観光どころではなくお土産の算段やらなにやらでバタバタしておりました。ISOに引き続き、役員引き当てるとか、どんだけ運がいいんだか…。
旅行の前日も仕事に追われてロクにお手伝いも出来ずで役立たずだったのは認めます。ごめんなさい。
相変わらずの停滞サイトに拍手ありがとうございます。
少しでも楽しんで頂いてるなら嬉しいです、ほっ。
素敵な更新をしていらっしゃるサイト様には、いつも楽しませて頂いてるので私も…と思いつつどうにもこうにも…すみません。
でもでも、応援は体中から変なオーラをだしつつしております、届け、わが愛!(無t理ですって
続きに思いつき小説です。(フェ風…?)
想い出と共に、手元に残ったオーブ。
本来対を持つ道具。もうひとつは、風の自惚れでさえなければ、異世界に住まう青年の元に置かれているはずだ。
机の引き出しに仕舞い込み、受験勉強の合間に眺めてみる。
冷たくもなく、ずっと手に握っていても熱伝導の起こらない不可思議な素材。きっと、こちらの世界では考えられないような物質で構成されているに違い無い。
風は何度も呼び掛けようと考え、そして、何も起こらない事を恐れて再び引き出しへと戻した。
素材同様、原動力も(魔法)という奇天烈な代物。こちらの世界で使用可能なのか判断することも難しい。万が一、セフィーロと同じ様に使いオーブ自体が崩壊する危険も充分に考えられる。
光の持ち帰った首飾りは、ただ彼女の胸元を飾る(お守りとしての意味もあるのだろうが)為だけにあるが、このオーブは(会話出来る道具)としての役割を持つモノである故に、ついつい過剰な期待を抱いてしまう。
異世界で恋をした青年の想い出の品として、ただ置いておく事を、気持ちが許さない。逢うことが叶わなくても、声を聞き、会話を交わせないだろうかと、つい心が揺れる。
それでも、実行に移す事は出来ず、日々だけは過ぎて行った。
そんなある日、風はいつものようにオーブを取り出し、その異変に気が付いた。
中心に埋め込まれた宝石が、鈍い光を放っている。それも、規則性を持ち光量が変化しているのがわかった。
勿論声が聞こえてくる訳ではない。危惧が的中したのかと、風は焦る気持ちを抑えて、ゆっくりと光の中心に指で触れる。
一瞬スイッチが切れた様に暗くなり、次の瞬間にはオレンジ色の光が上下左右に広がった。
「え…?」
そこに浮かぶ文字を見て、風はパチパチッと瞬きをする。
“フウ、元気か?”
声は聞こえない。推測することしか出来ない。けれど、自分へと向けられた言葉にかの姿を思い描いてしまう。
「フェリオ、ですか!? 貴方なのですか?」
思わず呼び掛けたけれど、反応は無い。ゆらゆらと空間に描かれた文字もそのままだ。
「それに日本語ってどういう、事でしょう…?」
不可思議に揺れる文字を見つめて、風はホウと息を吐いた。
それから二週間後、風は再び光るオーブと対面する。先だってと同じように宝石を押せば、別の言葉が浮かび上がった。
“そうだ。届いて良かった。今、セフィーロは少しずつ再生している”
「本当に、フェリオなんですね…。」
胸元に抱く事すら躊躇われて、風は揺れる文字に指を重ねる。じわりと滲んでいく視界から、頬を伝うものを手の甲で拭う。
眼鏡が雲っているせいで、現実である自分の部屋全体が柔らかな光りに包まれているようにも感じた。
それが、セフィーロから戻った風に起きた、最初の奇跡だった。
メール的な遣り取りが出来るといいなぁ~なんて思ったんですよ。
という訳で、追記に協賛小説を織り込んでおきました。
色気のないものですので、そちらにご要望がありましたらリクエストしてやってくださいませ。
おいおい書きます…多分…う。
更新はレイアにブログでアップしたものを載せております。
ちょっとだけ手直ししております。あ、守るフェリオさんは二話を追記してます。
フェリオサイドの話は後は無しで、風ちゃん視点で進む予定です。(笑)
この間『君に届け』を見てましたが、もうゴロンゴロンしてしまいました。
ああ、もう青春ッっ…!!!!
おばさんの心を鷲掴みだぞっ!馬鹿っ可愛い…!
繋いだ手を離すのが難しい訳じゃない
「ちょっと風、相談があるんだけど。」
肌寒さを感じるオープンカフェ。向かい合って座っていた海がいきなり身を乗り出すから、風は飲みかけの紅茶を一息に飲んでしまった。
喉を通る紅茶の熱さに咽せそうになり、唇を手で覆う。
「…一体どうなさったんですか?」
10月も終わりになろうという休日。風と海はセフィーロからの来客を待っていた。光は先にセフィーロへ遊びに行ってしまったので、ここにはいない。
「貴方が、お付き合いの先輩として聞くんだけどね。」
真っ直ぐに見つめられると、澄んだ碧眼の視線が強い。元々彼女は美人の顔立ちだが、特に瞳は逸品だった。
「クレフが何も無い空間に向かって話し掛けてるんだけど、フェリオもそう?あれって何なの?」
「ああ…」と曖昧な笑みを浮かべて、風は視線を逸らす。
余り触れたくはない話題だけれど、知らない振りをするのはよくないはずだ。スゥと息を吸い込み、風は己を落ち着かせてから海に向き直った。
「…セフィーロの方々…というか、魔力を持った方は、(幽霊)の類がお見えになるそうですわ。」
「幽霊…?」
海の、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を眺めながら、風は溜息を付いた。
「ええ。こちらで言うところの霊能力者という事です。」
風は怪談話は大の苦手だ。恐怖の感情は確かにあるけれど、実際は見えないものが存在しているという矛盾が本能的に受付ないようだった。
もはや理屈ではなく感情論。
なので、申し訳ないとは思ったけれど、フェリオには極力見ないふり知らないふりをお願いしている。それも、瞳に涙を溜めて、半ば切れ気味でのお願いだったはずだ。
けれど、目をパチパチッとさせてから、海はふうんと呟いた。
「私も霊感なんてないらしくて、生まれてこの方、見たことも聞こえた事もないわ。でも、そうよね、何にも見えないけど、クレフは確かに会話してたようだった。」
意外とあっさり受け入れてしまう海に、風は少々拍子抜けしてしまった。そうなんだと椅子に座り直し、海はケーキを口に運ぶ。特別に気にした様子もない彼女に、風は自分が神経質過ぎるのだろうかとも思い直す。
明らかに見えているものに対して、反応しないでくれというのは酷だったでしょうか…?
『別にいいぜ』と告げながら、フェリオの表情は微妙だった。海の反応を見るにつけ、風は申し訳ない事をお願いしたかとすっかり思案顔になっていた。
◆ ◆ ◆
風の願いが煩わしかった訳でない。
フェリオは表情の芳しくない彼女を前に、どう言うべきかと頭を捻った。
死者などあちこちにウヨウヨしている。纏わりつかれると流石に鬱陶しいけれど、積極的に係ってくる相手以外は基本無視してやるのが原則だ。通りすがりの人間にいちいち話し掛けたりしない事と、何処かにているのかもしれない。
けれど、行き来していて気付いた事だが、この世界は時々妙に霊達が増える時期がある。
それも、ひっそり系の奴らではなく、人恋しいというか懐っこいというか、目が合えばついてくるような輩が増えるのだ。これも近所付き合い(?)だと、そういう相手は無視せずに話を聞くようにしている。
ただ、風の目に見えないものが怖いという感覚も理解できるし、レイアースの人間は大概見えないのが普通で、自分が何もない空間に話し掛けているのだという事実を知って少々戸惑っただけの話なのだ。
フェリオはそれを頭の中で推敲し、短い言葉にまとめ上げる。
「俺がフウの願いを嫌がる訳ないだろう。」
ニコリと笑って返せば、風は申し訳ないような笑みを浮かべほっと息を吐いた。(要約しすぎだろうというツッコミは聞こえないふりだ)
「ありがとうございます。」
思慮深い彼女のやっと安心した笑顔の前に、フェリオもニコリと笑いかける。
フェリオとクレフがカフェで合流した後も、話の流れは自然と幽霊へと向かった。
大通りでは、ハロウィーンの仮装行列が始まっていたが、その為に店内に客の姿は疎ら、店員もイベントが終わった後の繁忙期を想定して、忙しく立ち働いている。
少し特殊な四人の会話に感心のないようで、注意を払う事なく会話を続けていた。
見えないという事実に、クレフはかなり驚いた様子を見せたが、感慨深げに首を巡らせた。
「…だが、今日はなかなかに多い。」
「そうなの?」
隣に座る海も同じように周囲を見回し、瞳を瞬かせる。それでも彼女の目には、お客の引いた少々閑散とした街並みがうつるのみなのだ。
「う~ん、想像し難いわ。」
「どちらかと言えば、俺がお盆とやらに見た時の方が多い気がする。」
フェリオも視線だけを滑らせる。もう一度、海は行動を繰り返したけれど、結果は同じだ。
「私達をからかってる訳じゃないわよね?」
腕組みをして正面に座るフェリオを睨み付ければ、両手を前に突き出して振って見せる。
「待て待て、それで俺に何の得があるんだよ。」
「だって見えないんだから、信じられないわよ。」
黙って会話を聞いていた風が、そうですわと声を上げた。
「お盆も、ハロウィーンも、基本的には亡くなった家族や友人達を偲ぶお祭りですわ。だから、きっと大勢歩いていらっしゃるのではないでしょうか?」
霊達の帰省ラッシュ…?
奇妙な単語が海の脳裏を掠め、笑顔が歪む。新幹線にギュウギュウ詰めに乗り込む幽霊達や、車で渋滞に捕まる幽霊達の様子を想像して綺麗な眉も歪んだ。
頭が痛いような気もして、こめかみを軽く抑えた。
「そうでなかったとしても、ジャックランタンですわ。
彼は生前に酷く悪い事とをして天国にも地獄にも行けなくなってこの世を彷徨っていらしゃるというお話ではありませんか?」
「急になんなの?」
海が首を捻れば、ああとクレフが頷いた。
「行くべき場所へ行けない者達や戻って来ている者が多い日という意味なのだな。それなら納得がいく。」
クレフが大きく頷く様子に、海の好奇心がムクムクッと沸いた。
「ねぇ、クレフ。本当に、そんなに、多いの?」
クレフとフェリオは顔を見合わせてから頷いた。と同時に、ドン引きをした風をフェリオが宥め始める。それを見遣って、クレフは口を開いた。
「私がこれほど大勢の者達がいるのを見たのは、戦火の後以来だ。」
彼の中に、瞳の奥に揺らぐ後悔を見つけて、海は眉を落とす。
ここは、こんなに平和でも。彼等は故郷で戦っている人間なのだ。
悲惨な光景など、画面でしか見たことなどない。現実として向き合っているクレフは、それを目の前に何を考え思っているのだろう。
「ごめんなさい。私悪い事を聞いた…?」
海の瞳が曇った事に、クレフもすぐに気が付いた。
自分の事でもないだろうに、心を砕いてくれる心優しい少女に、クレフはいつも癒されているのだと感じる。
多くの民達が命を落とした場所。そこで見る光景は、此処の比ではなかった。惨たらしい凄惨な光景は、しかしクレフにとっては生きている場所そのものだった。
いつか自分もその列に加わる日が来る。覚悟は随分と前から出来てはいたけれど、出来うる限りこの世に止まりたいと願う心が生まれたのも確かだった。
生みだした少女は、目の前にいる。
酷く心配そうなウミに平気だと告げる言い訳も確かにはあったが、クレフは違う事を思いつく。
「では、魔力を分けてやるからお前達も見て見るがいい。」
なんてことはない、と提案するクレフに風と海は目を剥いた。
「無理、無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理…。」
左右に素早く首を振る海に、クレフは驚いた表情をみせた。そして、クスリと笑う。
「魂など普通にあるものだ、そんな怖いものではない。」
「でも、私まだ死んだ人間と逢った事なんてないわよ!」
両手で拳を握りしめ、力説する海に、クレフは笑う。
「お前も、私も肉体が滅んでしまえばただの魂に戻る。誰の中にもあるものだ。そんなに恐れてしまっては可哀想だろう?
お前は、私は魂だけになってしまったら怖くてしかたないのか?」
「クレフに、そんな事思う訳ないでしょ!」
速攻の即答に、思わず笑みが零れた。
彼女は、その勢いのままにやると言ってくれるに違いない。もし駄目だったとしても、フウがやると言ってくれれば友達思いのウミの事、一緒にすることだろう。
フウと手が繋げるとわかればフェリオが黙っているはずはないから、確率としてはこちらが高いかもしれない。
そうして、悪戯じみたことを思いつく自分に、クレフは苦笑したくなった。
海の存在は、己の定石を常に壊す。けれど、それが酷く嬉しく感じるのだから困ったものだ。
「さあ。」
告げて微笑み掛ければ、海はモゴモゴと口を動かしてから自らの手を差し出した。そうして彼女の細い指先絡めとる。
こんな事をしなくても、正直に手を握りたいと告げればいいものを。
思い通りにならない欲望と行動は、導師と呼ばれ律してきた自分自身とはまるでかけ離れているようにも思えるが、間違いない自分自身の願いだ。
「お手柔らかに頼むわよ。」
きゅっと唇を引き締め、頬を赤くしながら見上げる碧眼に、それは自分の台詞だとクレフはただ微笑んだ。
◆ ◆ ◆
どうしてこんな事にと思いつつ、海は隣りを見る。
自分と同じように手を繋ぎあったフェリオと風の姿がある。風は最後まで反対していたものの、クレフの(何事も経験)という言葉に説き伏せられた形で承諾していた。それでも、何かしら思うところがあった様子は親友として感じる部分もある。
推測だが、フェリオと同じものを見てみたいという気持ちがきっと彼女にもあったのだろう。あからさまに、嫌そうな表情なのに踏ん張っているのが証拠だ。眉間に深い皺を寄せた親友に苦笑してから、海はそっとクレフの顔を覗き込む。
ふんわりと前髪が覆う瞼を落とした顔。淡い色の睫毛が長いことに、海は感心する。
クレフって本当に綺麗な顔立ちしてるんだわ。
精悍という言葉が似合うとは決して思わない。どちらかといえば柔らかい優しい顔立ちをしてる。けれど、真剣になった時の瞳はその趣を一変させるのだ。
こうして洋装を纏っていても、セフィーロでの導師である服装がやはり一番似合うと海は思う。あの馬鹿でかい杖もクレフのトレードマークのようなものだ。
「こら。」
瞼を落としているにもかかわらず掛けられた声に、海はドキリと心臓を鳴らした。
「集中しろ、ウミ。」
生徒を叱る先生のようだと舌を出し、けれど海も瞼を落とす。今度は繋ぎあった指先に視線が集中して妙に気恥ずかしくなった。
それでも、暫く我慢していれば温いお湯の中に浸かっているような、不思議な感覚が肌を覆っていく。身体がじわりと温かくなり、気持ち良い。まるで、ふわりと身体が浮いていくような感じがした。
「クレ、フ…。」
零れるように名を呼べば、くすぐったいほどに顔が近付いた。
「そんな声で呼ぶな、ウミ。」
囁かれる声すら心地よくて、海はゆうるりと微笑む。
夢見心地とは、こんな状態を表現しているんじゃないかしら。ふわふわとした思考は酷く纏まりがなくて、宙を浮いていた。
◆ ◆ ◆
頭の上に疑問符を数個浮かべた状態で、フェリオは眉間に皺を寄せていた。両手に乗せた風の掌を包む親指の力が、強くなったり弱くなったりしている。
「あの、ご無理をなさらないでくださいね。私も特に拝見したい訳ではありませんので…。」
ううむ。と呻って、フェリオは片目だけ引き上げる。
「悪い、色々と集中出来なくて…上手く出来ない。」
手の甲を悪戯に滑っていく指先に、風は頬を赤らめた。本当は目を開けたいのだが、何か見えればそれはそれで怖く、頬だけを膨らませる。
「悪戯をなさっていたんですか…私、真剣にやって…!」
「違う、違う真剣にはやってたんだって、でも難しく…わ、こら、本当なんだってば…!」
軽く拳を握って、フェリオの胸元をぽかぽかと叩いた。
「もう、知りません!」
あ~相変わらず仲が良いんだから、あのふたり。
声を聞いているだけで、ふたりの楽しそうな様子は手に取るようだ。ああいうじゃれ合いは殆どしたことは無い。それはきっと年令によるものなのだろう。
「何やってるのだ…。」
溜息と共に、クレフの声が聞こえた。
身じろぐ様子は、少しばかりの寂しさを呼ぶ。広がっていた暖かさが、ゆっくりと冷えていくのを感じた。
「ウミ。もういいぞ。」
耳元で囁かれドキリとした瞬間に、別の事を思い出す。
ちょっと待って、これで目を開けたらお化けさんとご対面なのよね!?
重なっていた指先が離れていくのも、海の焦りを上昇させる。がっしりと掌を掴み直し、慌てて声を張った。
「待っ、お願い、手はこのままで…!」
切羽詰まった海の声は、余程クレフを驚かせたのだろう。握っている指先に、ギュッと力が籠もる。
「どうしたのだ、ウミ。」
それでも、彼の声は落ち着き払ったもの。自分だけが焦っているみたいで頬が赤くなるのを感じた。
「あの、だからね。目を開けていきなりいたら、怖いでしょ!」
語尾はかなり拗ねた声になってて、クレフがクスリと笑うのがわかる。
「もう、今笑った…。」
「いや、可愛らしいと思っただけだ。」
クスクスと笑う様子に、どうなんだかと海は毒づく。
自分ばかりが子供で、いつでもクレフは大人の対応で…それが狡いと思う。
「一応注意しておくが、彼等とあまり目を合わせてはならん。
見えるとわかればお前にちょっかいをかけてくるかもしれない。何度も言うが、可視である時間は私の魔力が消えるまでだ。一生見えている訳ではないから安心してくれ。」
「うん、わかった。風も聞いてたわね。」
ええとか細い声が聞こえた。海は己を奮い立たせるように、ぐっとお腹に力を込めた瞬間、耳元で囁く声がした。
「それに私が一緒なら必ず守る。」
たとえ何が見えたって、クレフと一緒なら怖くない。ぎゅっと握れば、同じように握り返してくれる優しい指先。
「じゃあ、123で開けるわよ。1、2、…3!」
鼻息を荒くして、落ちそうになるほど目を見開く。一瞬眩しくて、でもすぐに目が慣れてくる。
そして、目の前には…
「普段通りね。」
「変わったものはありませんわ。」
先程と全く変わりようのない景色。
「…フェリオはともかく、私が失敗するとはな。」
解せないな、と首を傾げるクレフにフェリオが顔を歪める。
「おい、どういう意味だそりゃ。」
「まぁまぁ、フェリオ。私はこちらの方が安心致しましたわ。」
いつもと変わらぬ光景が繰り広げられるから、海は余程に脱力した。
「な~んだ。失敗か。」
がちがちに入っていた肩の力が一気に抜けた。海は、嬉しいような、残念なような複雑な心境で隣りに立つ青年に視線を向けた。
右手で顎を弄りつつ首を傾げている。そして、左手は海と手を繋いだまま。
何も見えはしなかったのだ。もう離してもいいのだけれど、その一言が海には言えない。
繋いだ手を離すのが難しい訳じゃない。
海は心の中でそっと呟く。
絡める指先にそっと力を込めて、少しでも一緒にいたいのだという想いがせめて伝わるように。
「どうした、ウミ?」
視線に呼ばれて、クレフが微笑む。海も何でもないわと笑い返した。
◆ ◆ ◆
セフィーロに戻るふたりを見送り、海はひらりとスカートを翻した。
「さて、光が戻ってくるのを待ちますか。」
「はい。」
ウインドウショッピングでもと歩き出した街は、やはりハロウィーンの飾りで溢れている。黄色いジャックランタンが揺れる街路樹に向かい、幼い少女が手を伸ばしていた。
赤い靴で爪先立ちをしているが、目指すものには手が届かないらしい。
行き交う人々はただ通り過ぎていくものだから、海の世話好きがむくむくと顔を出す。
「どうしたの?」
海が声を掛ければ、泣きそうに目を潤ませて指を差した。そこには、どうやってくっついたのか、掌ほどの熊のぬいぐるみがぶら下がっている。ふわふわとした毛並みの可愛い熊だが、目鼻の位置が少々不細工だ。
背中に金具が見えていて、どうやらキーホルダーになっているらしい。その先が枝に引っかかっている。
「あんな手の届かないところに、どうなさったの?」
風がしゃがみ込み、少女の肩に手を置いた。すんと鼻を鳴らして、彼女は俯く。
「お母さんに貰ったんだけど好きじゃなくって、いらないって放り投げたの…。
でも、お母さんが凄く悲しそうな顔して、私悪い事したんだってわかって、だから探したんだけど、取れなくて…。あったんだけど、取れなくて…。」
取れなくて、とぽたりと道路に落ちる涙に、海は熊のぬいぐるみを手取り渡した。
「じゃあ、もう投げちゃ駄目ね。」
差し出された熊に、少女が目を丸くする。そして大きく頷いた。小さな手で受け取り、胸元に抱き締める。
「良かった。」
心の底から安心したような声に、風と海も微笑む。そして、少女はおもむろに顔を上げて微笑んだ。
『ありがとう、おねえちゃん達。』
けれど、その声が消えていくのと同時に、少女の姿も空間に溶けていくように消えていった。
「え…!?」
はっと気付けば女の子に手渡したはずの、熊のぬいぐるみは気付けば再び手の中にある。
それも、片方の目は取れ、もうひとつの目も飛びしてボロボロの糸で辛うじてついている。ふわふわに見えた毛も薄汚れ、解れた手足の縫い目から内臓のように綿が飛び出していた。
「きゃっ…!!」
思わず、海は悲鳴を上げて手を引っ込めた。風は両手で唇を抑えて顔を青くする。
「まさか、先程の方は…。」
「幽霊…?」
顔を見合わせて、沈黙する。互いの瞳に、完全な戸惑いと恐怖を感じながら、ふたりはゆっくりと街並みに視線を戻した。
そこには、ふたりの危惧通り、普段見る事の出来ない世界が広がっていた。
好意的に表現するのなら、某U●Jのハロウィーンホラーナイトが入場無料で見れる状態。それも、スーパー・ホラー・エリアに限られているのはどうなのだ。此処がU●Jでない証拠に、落ち武者や着物姿もそれなりの数を揃え、ジャパニーズテイストも満天だ。
「ふ、風…。」
「う、海さん…。」
互いの両手をがっしりと握り逢って、道端に座り込む醜態を晒さずにすんだものの、腰が抜けそうな状態に変わりない。
確かに、フェリオやクレフが視線を彷徨わせていた訳だ。通常よりは多いなと確かふたりは会話していなかっただろうか。
「ど、どういたしましょう…。」
「どうするも、こうするも…魔力とかが切れない限りこのままって事でしょ…と、とにかく、視線を合わせちゃだ…。」
駄目と言うつもりの口が動かない。
彷徨う方々の一人だろうと思われる方がじいっと顔を覗き込んでいる。海と風の両方に、開いた瞳孔を向けた後、恐らくは笑みを作ったのだろう。削げた頬の肉を持ち上げる。
『わお…僕達が見えるんだね。』
容貌はともあれ、何処か陽気な幽霊は背後の仲間達に向かって大きく手を振った。
『この人達見えるみたいだよ!!助けてもらおうよ~~!!!』
手招きをするから、わらわらと寄ってくる。この世ならざる者達に囲まれ、海はヒイイと悲鳴を上げた。
落とし物が見つからないから成仏出来ないとか、もう一度あの人に会いたいとか、もっと楽しんでみたかったとか、口々に彷徨う理由を語り出す。
目に涙を浮かべながら風を抱き締めていた海だったが、自分勝手に喋り続ける方々に、イライラが募りだした。
プチンと軽い音が響いた後に、海は切れる。
「何言ってるのよ!!!私達が助けて欲しいくらいよ!!!!」
夕闇の街角に、彼女の罵声が遠く響いた。
◆ ◆ ◆
「そうか…。」
黙り込んでいたクレフが納得がいった様子でポンと掌を叩いた。フェリオは小首を傾げて彼を見下ろす。東京での失敗が気に入らず、ずっと考え事をしていたのだから、理由に行き当たったのだろうと察して声を掛けた。
「わかったのか?」
「分け与えた魔力は一度体内を循環してからでないと、効力を発揮しないのを思い出してな。」
こんな簡単な事例を忘れているとは、と呟く導師にフェリオは苦く笑う。
「…暢気な事を言ってるが、それなら、今頃見えだしているんじゃないのか?」
うむ。とひとつ頷く。
「そうだな。まあ、残念そうな様子だったから、きっと満足してくれているだろう。効力が切れれば見えなくなるだけの事だ。」
満足…?
フェリオは貼り付いた笑みを浮かべたまま額に汗を流す。今度東京に行った時、俺は生きてセフィーロに帰れるんだろうか…。
「どうしたフェリオ、顔色が悪いぞ。」
幽霊など生まれた時から見えて当たり前、精霊や精獣に囲まれて暮らすクレフには確かにその程度の感想だろう。
けれど、それが海には決して当てはまらない事を、風に教育されているフェリオは知っている。後は溜息を付くしか無かった。
「浮世離れした導師ってのも考えもんだよな…。」
◆ ◆ ◆
「…で、これ?」
セフィーロから戻り、ふたりと合流した光は、すぐに異常な事態に気が付いた。風は頬に指先を当てて溜息をつく。
「フェリオは本当にお上手では無かったようなので、魔力も少なくてすぐに効果は切れてしまったのですが、海さんは…。」
「へ、へぇ…。」
思わず目が点の状態になっている光を尻目に、海は何も無い空間に向かって怒鳴り散らす。
「いい加減にして頂戴!!!
私はなんにも出来ないし、しないわよ!!ついて来ないで!!!」
金切声を上げ続ける海に、風と光は生暖かい視線を送る。まさにハロウィーンの醍醐味を彼女は堪能しているのだろう。
「海ちゃん、大変だ…。」
眉を困ったように下げた光の呟きが、今夜の彼女を的確に表現していた。
嗚呼、ロマンチックな事など考えず、さっさと手を離してしまえば良かった。全く馬鹿みたい。自分の乙女心が情けない。海は目尻に涙を浮かべつつ、固く拳を握った。きっと、今の自分なら昇竜拳が打てる気がする。KO勝ちだわ!
「クレフの、馬鹿…!!!!!」
けれど彼女の叫びは、遠いセフィーロには欠片も届く気配はないようだった。
おしまい。